夫婦同苗字と夫婦別苗字のどちらだったか?
という問題について、わたしはお話しました。
「女大学の道徳は夫婦同姓を象徴としたか?」
エントリを書いたときは、情報が少なくて、
わたしは結論できなかったのでした。
お答えがわかったので、お話したいと思います。
「苗字/名字」は平安時代の後期に現れた
サムライたちが、自分たちの一族の
名前として名乗ったものです。
江戸時代のサムライたちは、ふだんは公的にも
私的にも苗字を名乗っていました。
江戸時代の家族は男性中心の「家」が単位で、
女性は結婚すると夫の「家」に入ることになります。
「苗字」は一族、すなわち「家」の名前ですから、
結婚した女性は、自分が入った「家」の
名前である夫の苗字を名乗って
「夫婦同苗字」だったのかもしれないです。
(このあたりについて、はっきりわかる
資料が見つからなかったです。
ご存知のかたがいたら教えてください。)
『日本人の姓・苗字・名前』(大藤 修著、
歴史文化ライブラリー)の56-59ページに
このあたりについての推測が述べられています。
簡単に言うと、戦国時代までは「夫婦同苗字」、
江戸時代になると「夫婦別苗字」も
多くなってくる、ということになります。
http://lacrima09.web.fc2.com/figs2/japanese_surename56-59.html
戦国時代は夫婦別姓にして夫婦同苗字であったとされる
ところが近世には、別苗字の家に入った女性が
生家あるいは養家の苗字を用いている例も散見される。
中世後期には「夫婦同苗字」だったとすると、
なぜ近世には「夫婦別苗字」の事例も
登場したかが問題となる。
戦国時代や江戸時代は、女性の結婚後の
苗字に関する史料が少ないので、
断定的なことはあまり言えないようです。
少ないながらも残っている史料から
判断することになりますが、
「当たらずとも遠からず」ではあると思います。
もともと苗字は平安後期に登場した
サムライたちが一族の名前として
称したものですから「家の名前」です。
戦国時代まではそうだったようで、
結婚後の女性は婚家の苗字を名乗って
「夫婦同苗字」となっていました。
江戸時代になると、苗字は「氏(うじ)」と
同じように「出自」を表わすものと、
意識することが多くなります。
かくして結婚後の女性は生家の苗字を
名乗るようになり、「夫婦別苗字」が
定着していくことになりました。
苗字を家督相続者のみに継承させていた
事例もあるものの、多くは父子相承されて
ミニチュアの「氏(うじ)」が形成され、
姓と同じく父兄血統(養親子(ようしんし)の
擬制を含む)の標識ともなり、氏の名称としての性格も
帯びるようになったことである。
苗字が姓と同一視され、氏の指標とも
みなされるようになっていたことは、
この時代の学者たちによっても指摘されている。
家督相続者によって家筋に沿って
代々継承されていく苗字が、「家名」としての
機能を果たすが、一方で父兄血統の標識ともなり
姓に同化したために、女性が他家に入っても
生家や養家の父方の苗字を持ちいて、
自己表示したり表示されたりする事象も
生じたのではなかろうか。
江戸時代にも婚家に帰属意識を持って、
婚家の苗字を名乗る女性もいました。
生家と婚家のどちらの苗字を名乗るかは
慣習や本人の帰属意識によります。
妻が実家、婚家のどちらの苗字を名乗るかは、
慣行や帰属意識にゆだねられていた。
近世後期には、婚家に帰属意識を抱き、
その苗字を称する女性も現れている。
「夫婦同苗字」と「夫婦別苗字」の
どちらのでも選べたことになります。
江戸時代は「選択的夫婦苗字」制度であった、
と言うことができそうです。
謝辞:
『日本人の姓・苗字・名前』という本を
ツイッターでご紹介してくださり、
江戸時代の婚姻時の苗字について
述べられていることを教えてくださった
mametanさま、まことにありがとうございます。
>(~ご存知のかたがいたら教えてください。)
— mametan (@tosiho) 2019年6月23日
「日本人の姓・苗字・名前」大藤修著に
近世の夫婦別名字事例として解説しています。
名字も氏(本姓)と同様な血縁的性格を帯びたと著者は推測しています。https://t.co/Z73EW807z9https://t.co/ZAUzl0Jdae
近世の夫婦別苗字について
— mametan (@tosiho) 2018年12月30日
「日本人の姓・苗字・名前」大藤修著
P.58ヨリ
"多くは父子相承されてミニュチュアの「氏」が形成され姓と同じく父系血統の標識ともなり氏の名称としての性格も帯びることになったことである。"
名字に関する歴史本の大半の史料からそう読み取れるので誰もがそう解釈する。
「日本字の姓・苗字・名前」大藤修著を読了。
— mametan (@tosiho) 2018年12月30日
P.56 「中世の夫婦同名字事例」と「近世の夫婦別名字事例」と歴史学者のいう「夫婦別姓同名字」説に対して考察していることが大いに評価できる。
名字が社会性を持ち「氏」と同様なブランド化して定着すれば夫婦は別名字になると歴史的に解釈すれば思う事
「ご存知のかたがいたら教えてください」と、
わたしがエントリで書いたので、
教えてくださったということです。