2016年05月07日

男性の性暴力被害クリニック

1年近く前のニュース。
スウェーデンのストックホルムにある強姦被害者のための
女性用クリニックが、男性やトランスジェンダーの被害者に対しても
門戸を開き診察することになりました。

方針を発表したのが2015年6月で、開始が2015年10月なので
すでに男性やTSの強姦被害者の診察は行なわれています。

「スウェーデンの強姦被害女性専用クリニック、男性も診療へ」
(はてなブックマーク)

「平等先進国スウェーデン 男性性暴力被害者診療所」


『ローカル紙』は「ストックホルム南部にある病院は、
特に男性のレイプ被害者のための救急センターを世界で初めて設置した。
このセンター開設は男女平等の取組みの一環で、
性別の平等を患者のケアや介護でも確保する」と報じる。

「ローカル紙」によると、地域最大の救急医療ユニットをもつこの病院は
これまでも24時間体制で女性のレイプ被害者の救急診療を行っていたが、
女性以外の全ての性別の犠牲者に対し、医療ケアだけでなく
カウンセラーが精神的な面から集中的な心療ケアも行う。


男性の性暴力被害者に対するケアは、女性の被害者と比べて
立ち遅れていることは、よく指摘されることです。
男性の被害者は女性と比べて数がずっと少ないゆえに
なおざりになりやすいということがあるのでしょう。
そうした中にあって医療機関がはっきりと男性の性暴力被害者を
対象とするという発表したことは、意義が大きいと言えます。

スウェーデンの強姦被害は2014年は6700件でしたが、
被害者が男性のケースは370人で、全体の5%程度です。
暗数化も多く実際の被害者はもっとずっと多いことは考えられます。
大半の被害者が女性であることは確かですが、
男性の被害者が存在することも確かです。

一方、スウェーデン国立犯罪防止委員会
(Swedish National Council for Crime Prevention)がまとめた統計では、
2014年に同国内で報告されたレイプ被害は6700件で、
うち約370人が男性か男児だった。
同委員会は、これは恐らく氷山の一角にすぎず、警察に通報したのは
被害者全体のわずか10~20%にとどまるとみている。


性暴力の被害者は女性でさえ偏見にさらされるくらいです。
男性の被害者はなおさらでしょう。
「性暴力は男性から女性に対して」という固定観念もあって、
男性の被害者は存在自体が無視されることもあります。

医療機関が男性の被害者をはっきりと対象とすることで、
男性が適切な治療や支援をうけられることはもちろん、
男性の性暴力被害者の存在が社会的に認識され、
偏見が解消されるようになることも期待できるとしています。

医師は「性別を問わず、性的虐待やレイプの被害に遭って
助けを必要としている誰にでも、門戸を開く」と説明。
この新方針が、特に男性被害者の汚名をそそぐ手助けとなり、
より多くの男性が心身に受けた傷の治療をもっと積極的に
受けられるようになることを願うと述べた。
「ラジオスウェーデン」は「性暴力被害者は性感染症のケアを
必要とするが、特に男性やトランスジェンダーの人々は
直ぐに医療ケアを受けようとしない傾向が特に強い」ため、
「(男性を対象としたセンターがなければ)
女性以外の被害者は医療ケアを受けようとしないと思われる」と
同病院の医師の指摘を引用する。

「水面下でケアを受けられなかった犠牲者が
適切な支援を得られるようになるだけでなく、
男性の性的虐待が偏見なく認識されるようになる」事が
期待されると「ローカル紙」はその意義を語る。


医療機関が男性の性暴力被害者を対象とするのは、
ストックホルムの病院が世界で最初とのことです。
女性の性暴力被害でさえ対応がじゅうぶんでないことがあるのに、
男性の性暴力被害の対応をするのですから、スウェーデンはやはり
ジェンダー平等先進国だと、わたしは感心しましたよ。

スウェーデンは女性の社会進出が進み、近年は企業の管理職の3人に1人、
大臣や国会議員の半数近くが女性であり、男女平等先進国として知られる。
性別に対する平等が社会の隅々まで浸透している事を象徴するかのように、
男性の性的暴行被害者を対象とした診療センターが
ストックホルムの病院に開設された。
世界初の取組みをスウェーデンメディアが報じる。


付記:

男性の性暴力の被害者が認識されにくいのは、
性暴力とは「女性の貞操に対する侵害」という考えもあるでしょう。
この社会通念のもとでは、女性の貞操は男性の「所有物」であり、
性暴力とは「男性の所有物が侵害された」ことになります。
「ほかの男に自分の女を寝取られた男性」が被害者ということです。

貞操概念は女性にだけあって、男性にはない概念なので、
男性の性暴力被害者は存在しないことになります。
夫婦間の強姦が認められない(男性が自分で所有する
女性だからほかの男による侵害にならない)、
性産業従事者の性被害が軽視される(すでに守る貞操がない)
といったことと、同根ということです。

「こまえーきの犯罪講座 強姦・強制わいせつ編」

性犯罪法制の問題点
http://macska.org/article/332
フェミニスト法学者たちは、こうした各国の「強姦」観は
女性の貞操を家父長の所有物として扱う歴史的伝統から成り立っており、
それが夫婦間のレイプや性労働者に対する性暴力の軽視、
そして「強姦」に対する「『強姦』」の矮小化に繋がっている、と指摘している。

歴史的に夫婦間のレイプが問題とされてこなかったのは、
女性の性が彼女自身のものではなく夫の所有物だとされてきたからであり、
また性労働者への性暴力が問題とされないのも、
彼女たちがそもそもどの男にも所有されない、
貞操を持たない存在だとされるからだ。

この前提において、取り締まられるべきなのはある男(父や夫)の持つ
女性の身体と性への所有権が「他の男」によって不当に侵害されること、
すなわち「よその男によって身内の女が寝取られること」のみだ。


性暴力被害を「貞操概念」ではなく「個人の性的自由」の侵害に
基礎を置くというスタンスを諸外国に先がけて打ち出したのが、
スウェーデンの「性暴力禁止法」ということです。

「スウェーデンは強姦大国?(4)」

性暴力対策において諸外国よりも「個人の性的自由」を
中心にした法規を持つスウェーデンで、男性の強姦被害のケアが
世界最初となったことは必然的と言えるかもしれないです。

こうした問題を解消するためにフェミニスト法学者たちが主張するのは、
「強姦罪」をはじめとする既存の性暴力関連法規を廃止するなり
大幅改正するなりして、個人の性的尊厳と自己決定権の尊重を
「性暴力禁止法」の中心に据えることだ。

けれども、個人の性的尊厳と自己決定権の尊重を
保護しようとしているという点で、スウェーデンの性暴力関連法には
他国より優れた側面があると考えている。


謝辞:

ストックホルムの医療機関で男性の性暴力被害者の
診察を始めたというAFPとグローバリの記事を、
メインブログの3月2日エントリのコメント欄で
ご紹介してくださったあやめさま、ありがとうございます。



posted by たんぽぽ at 23:34| Comment(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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