2016年02月27日

貧困のための性産業従事

メインブログの2月18日エントリと2月20日エントリで、
中村淳彦著の『日本の風俗嬢』について触れたのでした。
貧困のために性産業に従事せざるをえない女性の「現実」を、
中村淳彦はどう考えているのかと思うところです。

「貧困のための性産業従事」
「女性の権利と性産業従事」


これに関して『日本の風俗嬢』ではこんなことを書いていたりします。
性産業で従事する女性は、貧困層の多いシングルマザーが多いことや、
介護職員を始め低賃金の職種とかけもちする人が多いことを挙げています。

http://blogos.com/article/94169/?p=2

兼業女性の中で、これまで目立っていた職業は
看護師、飲食店員、アパレル転院、美容師だった。
また、6割が貧困レベルの生活を強いられていると言われる
シングルマザーが多いのも特徴である。

飲食店員、アパレル店員、美容師などのサービス業従事者の多くは
低賃金であり、その収入だけでは人並の生活が出来ない。
そして2000年代後半以降、急激に増えているのが介護職員である。

介護職員は、シフト制で時間が不規則な仕事である。
資格試験の受験に三年以上の実務経験が必要な愛護福祉士以外は、
時給計算の非正規雇用が一般的で、フルタイムで働いても
月収は15万~16万円にしかならない。

親が低収入で仕送りの少ない地方出身の女子学生と同じく、
普通に生活するのも厳しい金額である。
正規雇用の介護福祉士になっても、月給は手取りで19万円程度。
生活が厳しいうえに将来性のない、離職率の極めて高い
ワーキングプアの筆頭職種となっている。

これははまさしく貧困のためにやむをえず性産業で
働く女性が「現実」にいることにほかならないです。
性産業が貧困女性のセーフティネットの代わりであるという「現実」です。

わたしがメインブログの2月18日エントリや、
2014年3月4日エントリでお話した認識は妥当だったということです。

「あしたが見えない ~深刻化する“若年女性”の貧困~」
この性産業というのが、実際、職と共に、住宅であるとか、
夜間や病児の保育も含めた保育にまで、
しっかりとしたセーフティーネットになってしまっていて、
じゃあ実際それが公的なところで、こんなに包括的なサービスが
受けられるかといわれると、そうではないというのがかなり、
現実なんじゃないかなというふうに思っていて、
これ、社会保障の敗北といいますか、性産業のほうが、
しっかりと彼女たちを支えられているという現実だと思いますね


それにもかかわらず、なぜに中村淳彦はつぎのように
「性産業が貧困女性のセーフティネットだったのは過去のこと」
などと書けるのかと思うところです。

最初にお断りしておけば、「お金のために腹をくくって
裸の世界に飛び込み、涙を流しながら性的サービスを提供している」
といったイメージはすでに過去のものである。

一般女性が普通の仕事として風俗を選択し、
さして疑問を抱くことなくポジティブに働いている―これが現実だ。
お金のために働くのは当然であるはずなのに、
こと性風俗となると人々の反応は突然ずれてくる。
「極めて特殊な理由があって生い立ちや環境が不幸な女性が、
やむを得ずにカラダを売っている」


驚くことに中村淳彦はこんな認識を示しているのです(!)。
介護職は収入が少ないことまで取材しているのに、
なぜに「介護があるから大丈夫という保険」とか、
「介護に戻ればいいという安心感」とか思えるのかと思います。

介護職員は、安月給で生活できない悩みから副収入の手段を探り、
風俗の世界に足を踏み入れることが多い。
全国的に人手不足の介護施設は、国家資格である介護福祉士を
取得していれば、いつでもどこでも採用される。

性風俗がだめになっても介護があるから大丈夫という
保険があるので、大胆な行動がとれる。
ダメになったら介護に戻ればいいという安心感が、
性風俗の世界に積極的に向かわせるのである。
この場合、介護業界のほうが「セーフティネット」として
機能しているということになる

介護職員に性産業をかけもちする人が多いのは、
介護だけでは収入が少なくて食えないからにほかならないです。
保育士が低収入なことと同じような事情だと思います。)

「介護があってもぜんぜんだいじょうぶではなく、
保険にもならない」し「だめになったら介護しかない
という不安感」しかないということです。
それゆえやむをえず性産業に従事するということです。

中村淳彦は上記引用のような認識だから、「性産業が貧困女性の
セーフティネットというは過去のことだ」などと言えるのでしょう。
あるいは「性産業で働く女性はみずからそれを望んでいる」
という結論が先にあって、それに合うように
事実を解釈しているのかもしれないです。


中村淳彦は性産業に従事する貧困女性も見ているし、
取材もしているのですが、事実に対する解釈がおかしいということです。
しょせん女性の貧困のこととなんて理解していないし、
女性にとって「性を売ること」の意味もわからないのでしょう。

いくら綿密な取材をしても、元になる知識がないと、
おかしなことしか結論できないという見本だと思います。
中村淳彦の『日本の風俗嬢』は、取材した事実に限れば
わりと信用できるのでしょうが、事実に対する分析は
ほとんど信用できないと思ってよさそうです。



付記:

『日本の風俗嬢』のレビューを書いたかたは、
本をそのまま真に受けて信用しているみたいです。
中村淳彦の書いていることがおかしいと、なぜに思わないのかと思います。
自分で引用した部分だけでわかる簡単なことなのに、です。



関連エントリ:

「女性にとって性を売ること」
「貧困のための性産業従事」
「女性の権利と性産業従事」


posted by たんぽぽ at 17:14| Comment(6) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
少々思うところがあって、中村淳彦氏は他にも性風俗関連の著書が
あるそうなので、借り出そうと図書館に行ってみたのですが、休館でした。
残念。
なので、該当の記事を読んでの感想になりますが、

まず、恣意的な文章だな、というのが強い印象。
先日ご紹介頂いた
「中年童貞に問題がある?」に見るように、ある属性をまるっと
一つの傾向で括ってしまう、あの感じは、ルポライターとして
資質に欠けているように、私には感じられました。
それも著者が「あえて」そうしているんじゃなく、自分が対象者に
どんな視線を向けているか(まなざしているか)に、自覚が無い。
内省が全く感じられない。
ああいう目線で性産業をルポしたなら、それはもう簡単に店側と
ライターのwinwinの関係が成立して、あの業界のクリーンアップ
大作戦の片棒を担ぐことになるでしょうね。

気になる部分を拾ってみると、おおよそ2種類の主張をしていることがわかります。

①店側(主に経営者)が見せたいイメージ。
②著者に仮託(?)される、女性を気兼ねなく、安く買いたたきたい男の願望。

これを解釈するに、(御下劣注意)

①「お安いですよ」「お気軽にどうぞ」「若くてきれいでちゃんとした子を
厳選してますよ」「ウブな十代の女の子が抱けますよ」は集客の為の宣伝。
「十代のピチピチした女の子カモン!」「研修いらずの即戦力の子カモン!」
「大丈夫、みんなやってるよ」は女の子募集の宣伝。
②「どうせ処女じゃないんだろ」「低賃金労働なんてやってらんねー」
「可愛い若い女の子をやれるチャンスは風俗しかねーんだよ」…っていう、いわゆる
”きもくて金のないおっさん”とか、”素人童貞”のミソジニー的視線…。

こうして並べてみると、②の、著者の認知のゆがみが、①を宣伝したい業界の意思と
結びついて、相互に補完しつつ、矛盾した文章を生み出しているように見えます。

業界と著者がビジネスで癒着しているとも、著者が業者の手の内で
転がされているとも、いずれにせよ、ここからは性産業の本当の部分は
半分も見えていないと思います。
Posted by あやめ at 2016年02月28日 23:41
あやめさま、こちらにコメントありがとうございます。

>「中年童貞に問題がある?」に見るように、ある属性をまるっと
>一つの傾向で括ってしまう、あの感じは

性に関して偏見があるのだと思います。
かなり認識は歪んでいるものと思います。

>自分が対象者にどんな視線を向けているか(まなざしているか)に、
>自覚が無い。内省が全く感じられない。

あれは本当に「わかってない」感じですね。
本気であのような認識なのでしょう。


>気になる部分を拾ってみると、おおよそ2種類の主張をしていることがわかります

まさに「女を買いたい男」と「女を買わせたいお店」にとって
都合のいいことを書いているのだと思います。
この本に共感や賛同を示す人は、そういう女性観や
ジェンダー観の持ち主ということなのでしょう。

著者が業者に利用されているというのもありそうですね。
そもそもが著者が「そういう認識」なのだと思いますが。
Posted by たんぽぽ at 2016年02月29日 21:55
さて、

『女郎の真と玉子の四角、あれば晦日に月が出る。』

という言葉があるとおり、本音を聞き出すのは難しいものです。

中村氏の「ルポ中年童貞」では、

>自分の職場で起きたトラブルで、本人に聞いてみた。

であることを考えると、

もしかしたら、なじみの風俗店で取材したんじゃないかという疑惑が湧きます。
(だから読んでみたい)
そして多岐にわたる関係者にインタビューを取りました、だから信頼できます!とのことですが、
店で働く子からしたら、そりゃ本音は言えないだろうなと。

自分の店の(客)で、店の経営者と親しい(男)にインタビューされたとき、

本音が「つらい」「やりたくない」だったとして、正直に客に言うかな?
本音が「だまされた」「ひどい待遇」だったとして、経営者と通じている人間にそれ言っちゃうかな?

お風呂の中でなんとか椅子に座って、相方の女の子に身の上話を聞きました。
そこで本音を語るわけないだろ、と。

胴元の店長や経営者だって同じこと。

893がバックにいます。
うかつな口きくと消されます。
みかじめ料を払って、それが代議士の○○先生に上納されてます。
シャブ流してます。

言えないでしょ。
その世界に通じている誰かの紹介ですとか、元業界人です、でも無い限り。

「無いですよー!」「みんな楽しくやってますよー!」「そんなの昔の話ですよー!」
って笑い飛ばすでしょ、何の利益も生まない話だもの。

あの、《面接に10人来たら、何人取る?》っていう設問にしても、
要は仮定の話ですからね。
店の本音は「10人もこねーよ」かも知れないし、「せいぜい3人だね」って答えたとしても、、
実際は、「こないだ3人来たから全員雇った」でも何ら不思議はないでしょう。

だって、裏、取れないじゃん!(爆)

関係者に話を聞きました。
答えてくれました。
100%真実です。
ではお粗末ですよ。

それもあの露骨な男目線では、腹の底の底まで見透かされて、鼻づらとって振り回されますよ。

ちなみに、
『傾城に真なしとは誰が言うた 真あるほど通いもせずに 振られて帰る野暮な男の憎手口』
というのもあります。(おあとがよろしいようで)
Posted by あやめ at 2016年03月09日 21:55
=======================
性風俗の世界は、働く女性が個人事業主扱い(業務委託契約)で、店側との正式な雇用契約がない。
すると、労働基準法が適用されない。そのために違法な長時間労働、罰金制度やノルマが常態化する
社会保険にも加入できず、給料の未払いなどのトラブルが起こった場合にも責任を追及できない。(p218)
=======================

たまごどんは、この”中村氏の主張”を、金枝玉葉のごとく崇め奉っていますが、
本当に、これが現場の声なのか?という裏付けを取っていません。
「本に書いてあるよ」です。

また、中村氏の主張では今や性産業に従事する女性は、

一般女性が普通の仕事として風俗を選択し、さして疑問を抱くことなくポジティブに働いている―
これが現実だ。(P108-109)

「どこにでもいる一般女性」「高学歴」「家族持ち」
「平均的な女性に比べても勝っている」「上層部」

であると述べています。
たまごどんはこれにも同意しています。

しかも、今や性産業は、

「クラスの平均くらいでは、風俗業界で採用されるのも難しい」

程に狭き門であると。

高学歴であったり、平均的な女性よりも上の”容姿やコミュニケーション能力”
に優れている女性(つまり他の業界からの需要が充分にありそうな女性)が、
なぜ、狭き門をくぐってまで、これほど劣悪な労働環境を甘受しているのか、
しかも、「さして疑問を抱くことなくポジティブに働いて」いるのか。

この論理的整合性の取れなさは、何を意味しているのか。
そして、主張しているのは誰か。

レビューには、「著者自身も、実際に小さな介護施設を経営しており」とあります。
そして、本書には、介護業からの流入が増えていること、
介護職が「現代の貧困のセーフティネット」であるとし、
「介護職と性産業は、求められる適性が同じ」と、妙にリアルな筆致で描かれています。

=======================
多くの介護施設は「笑顔、やりがい、成長、夢」など、ポエム的な常套句を
一方的に職員たちに叩き込む傾向がある。洗脳してポジティブな状態を保たせて、
なんとか低賃金で働かせようとする施設側の工夫だが、貧困レベルの生活をしている自分より、
兼業風俗嬢の方がゆとりがあって幸せそうに見えるのは明らかで、よほど鈍い女性以外は
その差を実感することになる。経済的に困っている様子のない兼業風俗嬢が入職して
「実は私……」とカミングアウトすると、白い目で見るどころか、「私もやりたい」
という者が現れる。
こうしてまた誰かが性風俗への一歩を踏みだすという連鎖となる。

一対一での会話や肉体を使ったサービスが求められる等、共通項は多く、
相手が高齢者全般から男性限定に変わるだけ。
他業種よりも違和感なく性風俗に向かっていけるという面もある。
性風俗店の男性客が求める「明るさ」「コミュニケーション能力の高さ」「気が利く」「優しさ」
等々は介護職員に求められる適性と一致する。

ワーキングプアを次々と生みだしている悲惨な状況でも、介護施設側は
「介護は熱い想いを伝えられる素晴らしい仕事、夢がある」などと必死に訴えている。
しかし、介護職は蓋をあければ豊かさの欠片もない貧困女性の巣窟というのが現状だ。

高い志を持って介護の世界に足を踏み入れても経済的、精神的にすぐに追いつめられ、
これからは外見スペックが高い女性は性風俗へ、低い女性はそのまま専業介護職員という流れが、
一つの定番となるのではないだろうか。
=======================

確かに、経営者として介護業界の現状を案じている、という風にも読めます。
しかし…

中村氏は介護施設を経営している。
中村氏は現在の風俗嬢達は、「みずからの意思で」「さして嫌悪することなく」「ポジティブに働いている」と繰り返し語っている。
中村氏は現代の女性介護職員が、介護職をセーフティネットとして、性産業に「ポジティブに」参入していると、妙にリアルな口調で語っている。
中村氏は風俗嬢の希望として、「性風俗を職業として認めてほしい(社会保障)」と、主張している。

これが何を意味するのか…

もしかしたら、
介護施設は、経営難から女性介護スタッフの給料を削り、困窮する女性を性産業にあっせん
しているのではないか?
その上、社会保障を性産業界に負わせて、さらに自らの負担を軽減するつもりなのではないか?

私は最初に中村氏の文章を読んだ時に、ルポにしては恣意的な文章だと感じました。
今は、読めば読むほど、「女性を自分の都合で切り刻む」意思が見え隠れしているような…
なんというか、疑念が払えません。
Posted by あやめ at 2016年03月09日 22:01
あやめさま、
またまたこちらにコメントありがとうございます。

>『女郎の真と玉子の四角、あれば晦日に月が出る。』
>という言葉があるとおり、本音を聞き出すのは難しいものです。

>本音が「つらい」「やりたくない」だったとして、正直に客に言うかな?
>本音が「だまされた」「ひどい待遇」だったとして、
>経営者と通じている人間にそれ言っちゃうかな?

その可能性は多分にありそうですね。
取材した先は中村淳彦の馴染みの店ではないかもしれないけれど、
その場合でも、取材されたかたが本当のことを
言わない可能性は多分にあると思います。

ご指摘の通り性産業に従事している人は、とても立場が弱いですからね。
本当のことを言ったら、どんな怖いことになるかわからないです。
中村淳彦なんて性に関しては偏見があるでしょうし、
女性の権利なんてたいして理解もないでしょう。
(少なくとも理解があると思われてはいないでしょう。)
そんな人にあけすけに言えることではないと思います。


AV女優の例ですが、公開のブログと相談機関とで
言っている内容がぜんぜん違う、ということもあります。
https://www.bengo4.com/other/n_3912/
========
私たちの相談者の中にも、ある現役の有名女優の方がいます。
彼女はブログで「エッチ大好き」という主旨のことをつづっています。
しかし、私たちへのメールや電話では
「死にたい。死にたい。死にたい」という内容の相談がきます。
========

相談機関は女性の権利に理解があって秘密を必ず守る
ということが信頼できるからで、性産業に従事しているかたが、
本当のことを打ち明ける気になるのは、
よくよくの信頼できる人たちに限られると思います。
Posted by たんぽぽ at 2016年03月10日 22:17
あやめさま、

>私は最初に中村氏の文章を読んだ時に、ルポにしては恣意的な文章だと感じました。
>今は、読めば読むほど、「女性を自分の都合で切り刻む」意思が見え隠れしているような…
>なんというか、疑念が払えません

中村淳彦は自身が介護施設を経営しているのなら、
自分の業界の雇用状況を改善するよう、社会に訴えるのが本来ですね。
ところがそうしないで、介護職員はどんどん性産業に
送りこめばいいのではないか、なんて考えているということですね。


中村淳彦の本は「性産業に従事している女性たちは、
『自発的』にやっているのだからあれでいいのだ」と
思いたい男たちに、都合のいい内容となっています。

中村淳彦自身「女を買いたい」と思っていて、
「どんどん女がカラダを売るようになればいい」と
思っているのではないかと思います。
そうした願望に沿って書いた本なのだろうと思います。

それに加えて事実を適切に分析できず、おかしな解釈をする人なのでしょう。
小谷野敦の『もてない男』(ご存知かな?)と同じ印象を受けています。
Posted by たんぽぽ at 2016年03月10日 22:20
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