「金融緩和が自殺者を減らした」という主張を懐疑したのでした。
ツイッターでその懐疑を示したら、アベノミクス支持者から
わたしはツイッターでブロックされたのでした。
「自殺者の減少がアベノミクスの経済効果であることを懐疑したらブロックされた」
あなたは僕の「ミクロ的な財政対応」の貢献という部分を見落としているのと、さらに失業率と景気が相関しているという事実を11年、12年の減少だけで反証しようというおかしな論法でやろうとしている。ネット匿名の不生産的なつぶやきにはつきあいきれない。バイバイ@pissenlit_10
— 田中秀臣 (@hidetomitanaka) 2015, 11月 25
アベノミクス支持者のかたは、わたしのツイートのことを
「ネット匿名の不生産的なつぶやき」などと言っています。
匿名を楯にとって、信用できないとか、相手にできないとか
言い出して議論を打ち切るのは、ある種の論客の典型です。
わたしは田中秀臣からブロックされました。原因はこれです https://t.co/84QaPysXv2 。ずいぶんと早いです。「匿名だから」相手にしないとか、信用しないとか言い出すのは、ある種の論客の典型です pic.twitter.com/9CpsSwMMpm
— たんぽぽ (@pissenlit_10) 2015, 11月 25
ネットで実名を明かすことは、とくにわたしのような
無名の個人の場合は、あまり意味がないことです。
実名を聞いたところで、だれだかわからないですし、
意義のある情報が得られないことが多いからです。
匿名性を問題にするのは、発言に対する責任を問題にするからです。
そう考えると「ネットで匿名でない」というのは、
ネットではつねに同じハンドルを使うことで、
同一人物が発言しているとわかるようにすることのほうが大事です。
現実世界の個人情報とリンクしていることでは、必ずしもないわけです。
「「匿名」による批判の禁止ルールについて」
「黒木のなんでも掲示板:利用上の注意」
現実世界の実名をネットで公表しているから、
ネットでの発言に責任を持つとは限らないことは、
フェイスブックが証明していると言えるでしょう。
「実名化を義務付ければ、インターネットはもっとまともな空間になる」とかいうゴミみたいな言説を無事叩き壊したので、それだけでもFacebookはグレート。
— 犬紳士 (@gentledog) 2015, 7月 9
以前にも同様のことを言うかたがいましたが、
ネットが普及して20年になろうというのに、
手あかのついた匿名論を繰り返す人はあとを絶たないようです。
「手あかの付いた匿名の議論」
現実世界の実名を公表していないことを理由に
議論を拒絶したり、発言者の信頼性を否定するネットの論客は
「その程度」と思ってよいでしょう。
たんぽぽ氏の指摘はまともだし、別に田中秀臣のパーソナリティをdisっているわけでもないのに、議論でやり返せない田中秀臣ってマジ情けないねww https://t.co/R1WQ0i2uFT
— 広野 聖 (@adidagoo) 2015, 11月 25
匿名批判のアベノミクス支持者は田中秀臣氏。
立派な肩書きと著作をお持ちの経済学者ですよ。
「Economics Lovers Live」
歴史修正主義批判の「Apeman」氏に
目のカタキにされている「リフレ派」のかたです。
このあたりはわたしも前に紹介したことがあります。
「左派間の金融緩和観の差異」
「金融安定化と道徳感情?」
関連エントリ:
「金融緩和は自殺を減らした?」
STOP!自殺―世界と日本の取り組み(2006)
HTTP://www.amazon.co.jp/dp/4875252315/
p.39-40
「たとえば、フィンランドの国家自殺予防対策は成功例として語られることが多いが、自殺予防対策以前から自殺率の減少傾向が始まったこともあり、外部評価においても、自殺率の減少が対策によるものかどうかを厳密に評価することは難しいとされた。また、フィンランドの自殺予防対策の実施時期と一致して、ソビエト連邦の崩壊という突発的な政治事件が起き、経済面でも大きな影響を与えた。このような大事件が起きたにもかかわらず、自殺率の減少傾向が反転しなかったことが、自殺予防対策の効果かもしれないという消極的な評価が下されているくらいである。
一九九〇年代のアメリカの「健康国民2000」において掲げられた自殺率減少の数値目標は一九九七年に達成されたが、これが自殺予防対策によるものかどうかは定かではない。なぜならば、一九九〇年代前半においては、アメリカの国家自殺予防戦略はまだ本格的に始動しておらず、国家的な戦略のもとに自殺予防対策が系統的に行われたわけではないからである。」
・失業率と(粗)自殺死亡率の年次推移の正の相関は一見明らかに見えるのですが、自殺者中の失業者の割合が5%以下程度なので、その正の相関も、失業→自殺という直接的な関係では説明できないのです。
平成 26 年中における自殺の状況
HTTPS://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H26/H26_jisatunojoukyou_01.pdf
自殺者25427人中失業者1052人(4.14%)
(最多の「その他無職者」(これは失業者ではない)が、病気で無職と退職高齢者を恐らく含むが詳細が分からない。)
また、これは2003年にすでに指摘されていました。
精神保健研究~自殺学特集~(2003年)
HTTP://www.ncnp.go.jp/nimh/pdf/kenkyu49_sp.pdf
p.23
「しかし、失業率があがると自殺が増えるといっても「経済悪化→リストラで失業→自殺」という図式は、短絡的である 4)。」
・失業率と自殺死亡率の正の相関が自明かというとそんなことはなくて、(日本の)「男性の自殺死亡率は増加トレンドなのに対して、女性は現象トレンドなので、女性の自殺死亡率と失業率の相関が正にならない」(のでどうしましょう?→失業率と自殺死亡率の両方からトレンドを除去して相関を取れば合います!)という論文を田中秀臣氏自身が2007にブログで紹介しています。(データ処理上はトレンドを除けば合うといっても、除かれたトレンドにも意味があるので。。。)
HTTP://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20071109#p1
(田中氏のこの論文紹介「景気の悪化とその長期化が自殺率の増加をもたらしたことを検証する以下の論文」は内容と合っていません。下記URLのpdf参照。なお、ここでの自殺死亡率な年齢調整自殺死亡率です。)
この論文PDFの現在のURLはこちら。
HTTP://www.dallasfed.org/assets/documents/research/papers/2006/wp0603.pdf
"However, the male suicide rate shows a distinctive upward trend, whereas the female rate has been declining (Figure 2). The female suicide rate is not positively correlated with the unemployment rate."
・自殺死亡率の年次推移は、粗死亡率だけみていると分からないと思いますが、性別年齢階級別にして細かく見ると、増加と減少両方あります。なので、単一の要因(金融政策でも民主党の自殺対策でも)を持ってきて、それに対する因果関係で増加と減少の両方を説明すると無理が出てきます。
第2-b図 性・年齢(5歳階級)別の自殺の年次推移:自殺死亡率
http://www.ism.ac.jp/risk/suicide/visualize/pdf/fig2-b.pdf
(近年自殺は減少しているが「20代の自殺率だけが増加傾向」というニュースはこの一部です。2011年以降の数値は検索してみて下さい。)
・自殺の動機は、1自殺につき3つまで計上可能なのに加えて、動機をどうやって推定しているか不明なので、年次推移を見て好き勝手なことは言えますが、ちゃんとした分析にはならないと思います。2003年、2004年に以下の指摘あり。
精神保健研究~自殺学特集~(2003年)
HTTP://www.ncnp.go.jp/nimh/pdf/kenkyu49_sp.pdf
p.11
「自殺の動機というのは、複合的なものであることがほとんどで、一つの動機に分類するのは極めて難しいこと、また、既に亡くなってしまった方に動機を改めて聞くことは不可能であり、したがってこの動機は、あくまでも遺書や周りの人への聞き取りや遺留品からの推測に過ぎないからである。動機別統計は、性別や年齢、配偶関係といった社会的属性別の統計に比べると客観性は低いことを念頭においた上で、しかしながら、この警察庁「自殺の概要」に掲載されている統計は、自殺の動機という自殺学上の重大な問題に対して参考になる資料であることは間違いない。」
こころの科学(2004年11月号) 通巻 118号
HTTP://www.nippyo.co.jp/magazine/3815.html
「自殺の現状」高橋祥友
p.15
「このように、警察庁の分類した動機を考えていくうえで、いくつかの問題点を念頭に置いたうえで、データを見ていかなければならない。
というのも、精神医学や心理学の訓練や知識が十分ではない警察官によって集められたデータであるので、どちらかといえば表面に現れている原因を拾い出している可能性が高い。また、数多くの原因のうちで、あえてひとつの動機を取り出している点についても配慮する必要がある。
たとえば、「健康問題が第一位の原因となっているが、一九九九年の統計までは、「病苦」、「アルコール症を含めた精神障害」といった分類がなされていたのだが、それ以後、その両者を合わせて、あらたに「健康問題」としてひと括りにしている。身体疾患を苦にしたものか、精神疾患に悩んでいたのかさえわからない。
また、「経済・生活問題」が動機の自殺も一九九八年以後、つねに大きく取り上げられている。これは否定しようのない事実であるのだが、未曽有の「平成大不況」といった情報に一般の人々と同様に毎日接していた警察官が、自殺の動機を分類するにあたって影響を受けた可能性も考えられる。
このように、まず、個々の自殺例を単一の動機だけで分類してしまうことは大きな問題点をはらんでいるので、警察庁の統計だけから自殺の動機をひとくくりにして解釈することには問題が多い。あくまでも参考資料とすべきであるだろう。」
この指摘は現在でも通用するので、経済状況がある程度ましになったので、推定動機として経済問題を挙げなくなったという可能性も考えられます。(ただし決着がつくことはない問題です。Timmermansの研究の日本版が出てくればちょっとはましになるかもと個人的には思っています。)
また、仮に、年金が少なくて暮らしが苦しいと周囲に言っていた高齢者が、電車の中で焼身自殺するような場合、この動機は「経済・生活問題」にカウントされるだろうか、このようなケースは年金は固定、金融緩和で物価が上がると増えるだろうか、減るだろうか、ということも試しに考えてみるといいかもしれません。)
「金融緩和の効果で自殺者が減った」という、
「リフレ派」ご自慢の主張について検証できれば、
わたしはここではじゅうぶんと考えています。
それ以上の立ち入った分析は、さしあたって興味ないです。
あなたがここで書いたことは、ぜひ「リフレ派」の
みなさんに教えてあげるといいでしょう。
田中秀臣氏と同じような主張をしている「リフレ派」のかたは、
ほかにもたくさんいらっしゃるからです。
中にはこんなことを言っているかたもいますしね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/423703353.html
>自殺対策の効果の判定は難しい(ので水掛け論になりそう)
>ということも知っておくといいかもしれません
といったことも、「金融緩和で自殺が減った」と主張する
「リフレ派」のかたに、ぜひぜひ知ってもらうように
していただけたらと思います。