阿比留瑠比記者とで、慰安婦報道に関する対談があったのですよ。
このとき「慰安婦を強制連行した」と書いたのが、
朝日新聞ではなくじつは産経新聞だったことが、
はっきりするということがあったのでした。
「「韓国人慰安婦を強制連行」と書いたのは朝日でなく産経新聞だった!
植村記者に論破され阿比留記者が赤っ恥」
(はてなブックマーク)
朝日新聞の植村隆氏が書いた記事には、
「強制連行」という表現は、どこにも出てこないのでした。
そして植村隆氏の記事を参照したという産経新聞の記事に
はじめて「強制連行」という表現が出てきます。
(植村隆氏の記事を見て、産経の記事を書いた記者が
「これは強制連行だ」と考えたということだと思います。)
産経側はかねてから、植村氏が1991年にスクープした
慰安婦問題の記事について、“元慰安婦の金学順さんが
キーセン(韓国の芸者)として人身売買されたことを隠し、
「女子挺身隊」として国家によって強制連行されたように書いた”と主張していた。
しかし実のところ、植村氏の記事には
「強制連行」という言葉はいっさい出てこない。
植村氏が示した産経新聞の記事には〈金さんが17歳の時、
日本軍に強制的に連行され、中国の前線で、軍人の相手をする
慰安婦として働かされた〉とハッキリそう書いてあった。
これは金学順さんの記者会見での発言を元に書いたものだという。
「朝日は世界中に慰安婦に関する嘘をばら撒き、日本を貶めた」と
批判している産経新聞こそが、「(金学順さんは)日本軍に
強制連行された」とハッキリと報道していたのである。
ちなみに、朝日には金学順さんに関して「強制連行」と
書いた記事はひとつもない。なぜなら、第一報を書いた植村氏に、
金さんが強制連行されたという認識がなかったからだ。
慰安婦問題に多少くわしいかたでしたら、産経新聞をはじめ、
排外・国粋主義者や慰安婦の否定派のあいだでは、
「慰安婦の強制連行があったと書いた朝日新聞」という
認識があることは、ご存知だと思います。
ところがそれは、産経新聞が自分で「作った」朝日新聞とでも
言えるものであり、彼らはそうした自分で「作った」朝日新聞を
攻撃していたということです。
「彼らは何と戦っていたのだろうか」ですよ。
いったい、彼らは何と戦っていたのだろうか。真実を探索するという本分を忘れ、
“朝日叩き”それ自体が目的化しているとしか思えない。
ほかにも
1. 植村隆氏は産経新聞の過去の記事を読んでいるが、
阿比留瑠比氏は(自分の新聞社なのに)産経の記事を読んでいない。
2. 植村隆氏は元慰安婦を取材したことがあるが、
阿比留瑠比氏や原川貴郎氏は取材をしたことがない。
3. 1990年代の始めは、朝日だけでなく産経も毎日も読売も
慰安婦について同様の表現を使った報道をしていた。
といったこともしめされることになります。
とくに3. は従軍慰安婦が問題になったころは、
どこの新聞社も同じような認識をしていたのであり、
朝日新聞だけが取り立てて他社と認識が違っていた
というわけではなかったことをしめしています。
こうしてみると、植村隆氏は実証的な態度であり、
阿比留瑠比氏は多分にていたらくと言えると思います。
植村隆氏が問題の産経新聞の記事を阿比留瑠比氏に読ませて、
「強制連行」という表現が出てくることを確認させ、
さらに「産経の記事はまちがっている」と
阿比留瑠比氏言わせているのが、なかなか興味深いです。
産経新聞を始め、日本の排外・国粋主義者たちや、
慰安婦の否定派たちは、慰安婦の強制連行があったかどうかを、
慰安婦問題の中でとくに重要なことだと考えています。
そこに朝日新聞に対する彼らの不満が組み合わさったのが、
「慰安婦の強制連行があったと書いた朝日新聞」という
イメージだったのだと思います。
「朝日は世界中に慰安婦に関する嘘をばら撒き、日本を貶めた」
という彼らの認識は、慰安婦問題に対する彼らの不満を、
朝日新聞に転嫁したとも言えるでしょう。
発想がやや陰謀史観的だとわたしは思いますが、
慰安婦否定派や排外・国粋主義者にとってはあたまに入りやすく、
納得しやすい認識なのだろうと思います。
かかる認識のもと『正論』などの右翼メディアもまた、
ろくにもとの記事を参照せず、自分たちで作ったイメージで
朝日バッシングを繰り広げたということです。
そしてそれに触発された慰安婦否定派や排外・国粋主義者たちが、
植村隆氏やその勤務先に、おびただしい数の攻撃の
電話やら電子メールやらを送りつけたのですよ。
付記1:
植村隆氏は、自分の記事を「ねつ造」呼ばわりされたことで
慰安婦の否定派を相手に、名誉毀損で訴訟を起こしているかたです。
「慰安婦やはり書いてない」
付記2:
慰安婦問題における強制連行問題の重要性については
「0-1 強制連行が問題の本質なの?」
付記3:
朝日新聞の慰安婦報道に関する資料。
植村隆氏の記事についても言及があります。
http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122201.pdf