高校生用の副教材の図が間違っていたというお話をしました。
もとになった図は「みかけの受胎確率」で性交頻度の影響を
含んでいること、もとの論文の議論は「みかけの受胎確率」から
「実際の受胎確率」を推測している、ということを解説した
ツイートをご紹介しておきます。
「「妊娠のしやすさ」をめぐるデータ・ロンダリングの過程」
私なりの説明は https://twitter.com/twremcat/status/636463613587271682とご本人が注意していることを、お断わりしておきます。
以下のツイートを参照。ただし、私はこの分野の専門家ではないので、
ツイート情報の利用には十分注意されたい。
ヒトの妊孕力を正確に知るには、条件を統制して(3日に1度避妊なしで性交、とか)データをとる必要がありますが、それは不可能です。そこで代替的に、避妊が行われていない「自然出生力集団」でのフィールドワークでデータを集めます。今回の問題に絡んでいる研究はすべてこのタイプのものです。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
これで継時的にデータをとっていけば、どれくらいの間隔で「妊娠」が報告されるかわかるので、一定期間内に妊娠する確率が計算できます。これが「見かけの受胎確率」。今回問題になっている大元のグラフ http://t.co/vRsTlOcJyB が指しているのはこれです。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
しかしこれには (1) 性交頻度などを統制していない、(2) 妊娠が自覚される前の流産で暗数が出る、という二つの問題があり、両方が年齢と相関している可能性があります。Wood (1989) は、これらの要因をのぞいた "真の受胎確率" の推計結果を報告しています。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
http://t.co/IIN6DgcCSV (a) は最大頻度 (毎日?)、(b) は25歳時の頻度に固定したときの推計です。両方を除いた "真の総受胎確率" が白丸、性交頻度の影響は除くが流産による早期胎児損失は数えない "真の見かけの受胎確率" が下側の黒丸の線です。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
(1) 白丸の線は20代前半から40台前半までほぼ一定、(2) 黒丸の線は20代中頃が最大、そのあと減少しますが、その減少分は元グラフよりかなり小さい。つまり、22歳が頂点だったのは、この研究の対象集団 (台湾らしい) で性行動が一番活発なのがそのあたりだったためという結論です。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
O'Conner ほか (1998) では、定期的妊娠検査で本人にも自覚されない初期妊娠を検出することで、総受胎確率を直接測定しています。結果 (Fig. 5) によると、真の総受胎確率は38歳くらいまで常に1、流産の確率は18歳で最低値0.4でそこから単調に増加しています。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
O'Conner ほか (1998) のこの結果が妥当かの判断は私にはつきません。この部分はこの論文の本体ではなく、Holman (1997) の博士論文 http://t.co/sPoJVISLps を紹介しているだけなので、本当はそっちを読む必要があります。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
というわけで、これらの研究を根拠として採用するのであれば (1)「妊娠しやすさ」のピークは22歳ではない、 (2) 真の総受胎確率は20-40歳の間でほとんど変化しない、 ということになるはずです。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
真の見かけの受胎確率については話が複雑です。 (3a) Wood の結果を採用するなら、最大値は20代半ばで30代までの減少はゆるやか (3b) O'Conner ほかの結果を採用するなら、最大値は18歳以前で、それ以降急激に下降する、という相反した結論になります。
— TANAKA Sigeto (@twremcat) 2015, 8月 26
関連エントリ:
「22歳妊娠適齢説が批判される」