2014年05月25日

放射線による健康障害のメモ

メインブログの5月19日エントリ、および前のエントリに関連して、
放射線による健康障害についてのメモ。

「美味しんぼの鼻血表現」
「美味しんぼの鼻血表現」



>確定的影響と確率的影響

「鼻血や下痢も被曝の症状? 誤解されがちな放射線被曝」

「確定的影響」の概念図。
しきい値(200ミリシーベルトなどの大きな値)以下では症状が起きない。
しきい値以上のときは、線量の増加にともなって症状の現れる確率が高くなる。

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確定的影響とは、短期間にある放射線量以上(しきい値といいます)を
被曝することであらわれる症状をいいます。
一度に約200mSv 以上の大量の被曝をした場合、個人差はありますが、
白内障、一時的な脱毛、リンパ球の減少による血液を作る力の低下
が起こることが確認されています。やけどや出血、下痢なども含まれます。

確かに大量の放射線を浴びると、上記のように血液の正常機能が害され、
血が止まりづらくなったり、消化管の障害により下痢になったりすることがあります。
これを「急性放射線障害」といいます。
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「確率的影響」の概念図。
しきい値がなく、被曝から一定期間後にある確率で症状が出る。
低線量の放射線を浴びたときの影響は、ごく小さいゆえに
はっきりわかっておらず、直線的に変化すると仮定している。

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一方で、確率的影響とは、被曝から一定期間後に、ある確率で起こる、
発がんなどの影響を指します。

100mSv 以下の線量では、被ばくによるがんの増加は認められていません。
あったとしても肥満、喫煙、飲酒などの生活習慣などによる方が
体への影響は大きいと考えられています。
もちろん、だからといって、放射線の影響を考えなくて良いという話ではありません。
余分な被曝は避けるべきであり、ICRP は、100mSv 以下の線量であっても、
がんの死亡率との間に比例関係があると考えて、
達成できる合理的な範囲で線量を低く保つように勧告しています。
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「放射線の確定的影響と確率的影響 (09-02-03-05)」
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 放射線の健康影響は、放射線防護上、しきい値のある確定的影響の発生防止と、
しきい値なしとした確率的影響の合理的な制限を達成するため、二つに大別される。
確定的影響では、100mGy程度まで臨床症状が見られないが、
線量が高い(1Gy程度以上になる)と、不妊、白内障、
急性被ばくの嘔吐、脱毛などの身体的影響が考慮される。

確率的影響では、100mSv程度以上で有意増加が確認される
ヒト発がん(固形がんと白血病)と実験動物で有意増加が確認される
遺伝的影響(先天異常)などが考慮される。
自然放射線に加わる年間100mSv程度以下は
「確率的影響がしきい値なく増加線量に比例する」というLNT仮説が、
最新知見も考慮の上、採用されている。なお、胚・胎児の被ばくに伴う
健康影響にも上記の分類が適用される。
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>急性放射線障害

鼻血が出るという症状のしきい値は500ミリシーベルト。

「原爆放射線による人体への影響 (09-02-03-10)」
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2.1 急性障害

亜急性症状の主なものは、吐き気、嘔吐、下痢、脱力感、各種出血、
白血球減少、赤血球減少等であった。
特に骨髄、リンパ節、脾臓などの組織が破壊され、
その結果、顆粒球や血小板が減少し、感染に対する抵抗力の低下
および出血症状が現れた。この時期の死因の多くは敗血症であった。

放射線被ばくによる主要な急性障害は、脱毛、出血、口腔咽頭部病変及び
白血球減少であるが、これらの発生率は被ばく線量の増大とともに顕著となり、
50rad(0.5Gy)での5〜10%から、300rad(3Gy)での
50〜80%まで直線的に増加した。脱毛は被ばく後8〜10週に起こった。
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>放射線被曝による出血の機構

放射線障害による鼻血は血小板の減少による。
鼻血以外にも腸管や歯茎など、ほかの部位からも出血するようになる。

「美味しんぼ問題が全くナンセンスである医学的理由」

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詳しく説明していきます。放射能を浴びると、一般に「分裂が盛んな細胞ほど」
ダメージを受けます。例えば、腸の粘膜、骨髄、毛母細胞等です。
急性放射線障害によって、下痢や脱毛を起こすのはこのためです。
逆に、分裂が盛んでない細胞はダメージを受けにくい。脳や心臓等ですね。

さて、放射線が骨髄を叩くと、骨髄の機能が低下します。
新しく血液が作られなくなるわけです。結果、血液の成分が不足します。
汎血球減少(pancytopenia)という状態になるわけです。
特に問題になるのが、白血球と血小板の減少で、
出血は、この血小板減少によって引き起こされます。

血液の固まる力が落ちた結果、血管壁が薄かったり、
比較的出血し易い部分から持続的に出血します。
鼻粘膜だけでなく、腸管(下血)、歯茎等からも同様に出血が起こります。


さて、ここまで説明を読まれた方ならお解りと思いますが、
通常の鼻血と放射線障害による鼻血は全く異なるものです。
そのため、鑑別が簡単にできます。
具体的には、簡単な血液検査と耳鼻科医による患部の観察でしょう。
放射線障害であれば、血球全体、少なくとも血小板の減少があります。

言い換えれば、血小板の減少を伴わない鼻血は、
放射線障害によるものではありません。これに、耳鼻科医の所見が加われば完璧で、
放射線障害であれば、鼻粘膜全体から湧き出す様に出血しています。
出血部位があって、上に瘡蓋が乗っている様であれば、
それは通常の鼻出血にしかすぎません。

簡単な血液検査だから、耳鼻科でやれると思います。
一緒に鼻を診て貰えば安心出来るでしょう。
都市伝説に惑わされて、無用な心配をするのは馬鹿げています。
また、医師の対応にも問題があります。一部の医師を覗けば、
一笑に付されてしまう例が多いのではないでしょうか?
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関連エントリ:

「美味しんぼの鼻血表現」



posted by たんぽぽ at 18:39| Comment(0) | 科学一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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