2013年12月07日

数学能力の性差の記事だけど

理系に進学する女の子が残念ながらすくないことは、現状としてあることです。
それについて書かれた記事があって、社会的なバイアスに原因があるという
結論はごもっともですが、途中で「男女の脳の違い」なんてお話があって、
怪しいところがあったりするのですよ。

「なぜ理系に進学する女子が少ないか」



記事の結論は、「「女子は生まれつき数学が苦手」という結論を
導き出すかといえば、違います」というもので、これはまったく同意できます。
3ページ目に、事前に先入観を与えることで数学の試験の結果が
大きく変わるという心理実験をふたつ紹介しています。
この心理実験はとても興味深いと思いますよ。

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スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授は、
女子生徒が数学の試験を受ける前に「有名な数学者には天賦の才能がある」、
もしくは「天才数学者も努力して成功した」のどちらを聞くかによって
成績が異なるかどうかを調査しています。
その結果、より優秀な成績を修めたのは後者でした。

数学のテストの前に大学生の2つのグループの一方に
「男女の成績は変わらなかった」と教え、他方には「男女により試験の
成績に差があった」と伝えると、前者の男女の成績はほぼ
同じだったにもかかわらず、後者の女子は男子より成績が落ち込んだ、
という実験結果もあります。
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こんなふうに目先の心理効果でも大きく試験結果が変化するくらいですから、
数学の能力は後天的な学習によって決まるものであり、
生物学的な男女差など関係ないことがわかるでしょう。

記事でも「社会的なバイアスについても考える必要が
あることがわかります」と書いています。
ここでも外から「女の子は数学が苦手だから」なんて言って、
ジェンダーバイアスをかけるのがよくないという、よく言われることが、
あらためて確認されることになるわけです。


ところがどういうことか、この記事は1ページ目の後半から、
男女の脳の違いについてのお話を、延々と書いているのです。
「男女では脳の構造に違いがあります」とはっきり言っていて、
つぎのように「男のほうが空間認知能力が高い」と言っているのです。
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「3次元の空間迷路」を解くときに、女性が頭頂部や前頭部をより使用するのに対し、
男性は海馬システムにより多く頼っているとの実験結果を明らかにしています
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どこかで聞いたことがある言説ですが、怪しさが立ちこめていますね。

さらに男女の脳の違いを右脳と左脳の違いに結びつけ、
脳梁の太さの違いで説明しているのです。これはもう典型的ですね。
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また、男性は右脳で物事を捉え、女性は左脳で考える--
そんな話を聞いたことがあるかもしれません。
右脳は空間認知能力、非言語の情報処理、左脳は言語能力などを司っているとされます。
女性は男性に比べて、左脳と右脳を結ぶ神経繊維の束である
「脳梁」の後部が太い傾向があります。
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右脳と左脳の違いとか脳梁の男女差といったことは、
すでにたくさん反証されて、根拠がないことがわかっているものです。
よってこれらをもとにした「男女の脳の違い」論も根拠がないと言えます。
これについては、わたしは何度もメインブログで書いているので、
ご覧いただけたらと思います。

「右脳左脳の違いは誤認」
「男女で脳に違いはない」
「脳梁の性差批判の記事」
「脳の性差研究の最前線」
「男女脳の違い?(2)」
「男女脳の違い?」


男女で数学の能力の違いがあることが、生まれつきではなく、
社会的なバイアスによるものが大きいというのが、記事の主旨です。
となれば脳の男女差のお話なんて、どうでもよいことだと思います。
むしろこんな記述は必要ないと言えるでしょう。

それどころか、男女で脳の構造に違いがあることについては
肯定しているので、問題でさえあることになります。
このような男女脳の違いについての記述があることが、
この記事の信憑性を必要以上に損なっているのではないかと、わたしは思います。


付記:
数学の能力の男女差が生物学的な性差ではなく、
社会のジェンダーバイアスであることは、前にも記事を書いています。

「男女平等と数学の成績」
「女性に朗報!? 女性が数学が苦手なのは性別ではなく、社会に原因があった!」

このときは、男女平等の国では女子の成績だけでなく、
男子の成績もよくなるという現象が起きていることに、注目したのですが。



posted by たんぽぽ at 23:10| Comment(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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